「起業準備」カテゴリーアーカイブ

「現役経営者が教える ベンチャーファイナンス実践講義」 水永政志(著)

 

著者はジャスダック上場企業であるスター・マイカ株式会社の創業者であり、大学で講義もされています。プロフェッショナルです。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

起業したい人でファイナンスの基本を学びたい人。

 

要約

・著者は過去に3社のベンチャーを起業した。その体験から学んだことは起業前に知っておいた方がよいことも多く、起業をめざす人に伝えたい。

・1社目の経験。財務や経理を知るべき(資金繰りに困る)。資金調達をしないと会社は大きくは成長しない。企業価値や法律を知るべき。

・2社目の経験。ビジネスモデルに絶対はない。常に最悪の事態を想定せよ。

・3社を通じての経験。起業にはサラリーマンには味わえない無限の可能性があり、本当に楽しい。挑戦し失敗を重ねても学び続けることが大切だ。失敗に学んで失敗しない方法を選び続けよう。

・ベンチャー企業とは、急速な成長を積極的・冒険的な精神でめざす企業である。従来ある中小企業との違いは、所有と経営の分離を考えるかどうか。

 

ビジネスモデル

・ビジネスモデルでは、顧客、価値、経営資源の3要素が重要。アイデアよりどのように実行するかが大切だ。

・既存のビジネスモデルのバリューチェーンを、異なる視点で再構築してみる。レイヤーマスター、オーケストレーター、マーケットメイカー、パーソナルエージェント。

・競争優位を築く。
コストリーダーシップ戦略(規模の経済・経験曲線・範囲の経済)、差別化戦略、集中戦略。

・SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)。

・プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(ポートフォリオの最適化)。市場成長率と相対的マーケットシェアの2軸で分析。

・合理的な判断をする。サンクコストの呪縛を避ける、機会費用を意識する、フレーミング効果やアンカリングに気をつける。

・ビジネスモデルには再現性がなければならない。

 

株式会社

・株式会社についての解説。
法人格をもつ。出資者は有限責任。株主と取締役と会社代表者の関係。会社設立のプロセス。黒字倒産の原因。資本金。議決権。

 

組織

・企業目的を遂行するために、シンプルで意思疏通が円滑にできる組織が好ましい。
組織構造の要素には、専門化・部門化・管理の範囲・権限の範囲・公式化がある。これらの要素が、ピラミッド組織やフラット組織および自律型組織をつくる。

・組織形態の類型
機能別組織、事業部制組織、カンパニー制と持株会社制、マトリクス組織。

・組織停滞の原因と、組織活性化のための社内制度や人事評価制度について。

 

資金調達

・内部留保のみでは成長は遅い。資金調達の方法として負債(デット)と資本(エクイティ)を考える。

・負債には、不動産担保融資やプロジェクトファイナンスでの銀行からの借り入れがある。信用保証協会を通じた、行政機関や政府系金融機関の融資を受けることもある。

・社長の個人保証について。連帯保証と根保証。

・銀行について。コベナンツ。

・その他のデットファイナンスについて。手形の割引、社債、新株予約権付社債。

・ベンチャー企業はエクイティファイナンスを多く活用する。アーリーステージでのエンジェル、レイターステージでのベンチャーキャピタルからの投資など。

・ベンチャーキャピタルについて。投資を受けるプロセス。

・ダイリューション(希薄化)について。株主割当増資、第三者割当増資、適正な株価。

・種類株式について。優先株、転換予約権付優先株式。

・資本政策では必要資金の確保と経営権の確保を両立させる。

 

コーポレートガバナンス

・コーポレートガバナンスは、取締役が株主のために働くことを担保する仕組みである。
株主総会、取締役会、監査役、代表取締役、執行役員、ステークホルダー、敵対的買収、買収防衛策について。

 

株式上場

・上場のメリット
流動性が高まり、株の価値が上がる。知名度、信用度が上がる。人材採用がやりやすくなる。社債が発行しやすくなる。

・会社は株主に対し情報公開の義務を負っている。上場後はさらに詳細に報告する義務がある。インサイダー取引は極めて重い罪である。

・IPOは、第一段階として証券会社が引き受けて株式が公開され、第二段階として上場して取引所で株式が売買される。
公募では新株を発行するので会社は事業資金を得られるが、売り出しでは創業者などが発行済みの株式を売るので会社にはお金は入らない。

・ブックビルディング方式について。上場適格要件について。

 

出口戦略

・企業はゴーイングコンサーン(永続的な存在)だが、創業者の能力には期限がある。創業者は自身の能力が低下し始めたことを自覚できないと認識し、経営権の委譲について考えておくべき。

・創業者が適切な後継者に経営を委ね、保有する株式も市中で(あるいは事業提携先に)売却し、または新経営陣にMBOさせることで、新経営陣に緊張感を持たせるという出口戦略が望ましい。

 

企業価値

・企業価値 = 借入金 + 株主価値(時価総額)

・会社の価値
継続価値 = 企業が生み出すキャッシュフローの現在価値の総額
解散価値 = 企業の資産価値 – 負債の価値

・キャッシュフローの現在価値、正味現在価値、内部収益率、永久定額年金、割増永久年金、EBITDA、株主価値、株主資本コスト、加重平均資本コストについて。

 

書評

書名から起業にまつわるファイナンスの技術的な解説の本かと思って読みましたが、起業全般の講義でした。数式も最後の附録まで出てきません。ファイナンスが中心ですが、自身の起業体験やビジネスモデル、会社組織のあり方なども説明されています。

大学で講義されていることもあり、基本的な事項を実践的に解説しているという印象です。ファイナンスも含めて、起業や経営の基本を学ぶ本と思われます。

著者は3回起業してさまざまな経験をしているので、机上の空論ではないテキストとして学べそうです。
(書評2013/11/24)

「スタートアップ・バイブル シリコンバレー流・ベンチャー企業のつくりかた」 アニス・ウッザマン(著)

 

著者は日本に留学経験があり、IBMなどで勤務し自分でもビジネスを興し、その後シリコンバレーでベンチャーキャピタルを設立した方です。シリコンバレーの起業事情に通じ日本の状況もよく理解されているという、貴重な人物です。

おすすめ

★★★★★★★★☆☆

 

対象読者層

起業したい人(特にIT系)。日本のベンチャービジネスについて考えたい人。

 

要約

・日本は技術やサービスは優れているが、ベンチャー育成の情報と知識が不足している。本書の目的は、日本のベンチャーが世界で勝てるように情報と知識を提供することである。

スタートアップで重要な6つの要素
1.よいチーム
2.系統立てた効率的なプロダクト開発
3.特許の管理
4.適切なマーケティング戦略
5.資金調達戦略
6.エグジット戦略

 

1.よいチームの作り方

・チームメンバーを選ぶポイントが一貫していること。
ビジョンが一致、価値観、情熱や意欲、柔軟性、誠実さなど。

・チームメンバーとなるのは、次のような事例が多い。
身近な友人、学生時代の知人、仕事の同僚や知人、スタートアップのイベントなどで知り合った人、アドバイザーやインキュベーターの紹介、オンラインジョブサイトやソーシャルメディアでの採用。

・会社の組織構成は基本を守れ。
組織内で役割と責任を明確にするため。外部関係者から信頼を得るため。

・必要なポジション(会社の方向性や時期によって数は異なる)とその役割
CEO:ビジョンを示し、戦略を決める。企業文化をつくり、社員のモチベーションを保つ。投資家とよい関係を構築する。
CTO:プロダクト開発の統括。
CFO:資金調達戦略、経理、財務、人事。
VP of Sales:営業、マーケティング戦略の実行。
CMO:マーケティング、広報。
COO:会社のマネジメント、中核事業の執行。

・取締役会は、代表取締役社長、社内取締役2~3名、投資家派遣の取締役1~3名、(社外取締役1~3名)のようにバランスをとり、会社経営を迅速化させるような人材を選任する。

・アドバイザーは、経験豊富な専門家で人脈を持っている。スタートアップの信頼性を高め、資金調達や顧客集め、パートナーシップの紹介、人材の採用、オペレーションなどの面で支援してくれる。
自社のビジネスを加速させるようなネットワークを持ち、自社のビジネスモデルに適するアドバイザーを選任する。

・起業初期は外部の取締役は不在でもよいが、アドバイザーは招いた方がよい。

・起業後のシード、アーリー、アドバンス、エグジット各段階における、取締役と責任者の役割について。

・人材採用では4つのプロセスがある。
①求める人材の能力や資質を考える職務分析
②募集(会社のホームページ、大学のウェブページ、求人斡旋会社のウェブページ、SNS、ヘッドハンティングなど。)
③書類審査(求める人材であるか確認。)
④インタビュー(オフィスに来てもらう。会社と同じ目標を持っているか、コミュニケーション能力、協調性、モチベーションなどを確認。)

・スタートアップの人件費の負担は重いので、アウトソーシングも活用する。

 

2.プロダクトの作り方

・マーケット調査
①どのような問題を解決したいのか。どのように問題を解決するつもりか。
②誰がユーザーか。市場は世界か自国のみか。想定される市場の大きさは。海外進出の際の障害は何か。
③すでに同じようなプロダクトが存在するか。誰と競合するか。競合との違いは何か。競合より優れている点は何か。潜在的なパートナーは誰か。潜在的な買収先は誰か。
④どのように収益化するのか。ユーザーにライセンス販売するのか。他の企業にライセンス販売するのか。フリーミアムか。広告費を収益とするのか。

・プロダクト開発
できるだけ早くプロダクトを開発し、顧客ニーズを検証しながら開発を続ける(リーン・スタートアップ・モデル)。最初にリリースするというインパクトが大切であり、他社より早く公開しシェアを獲得すること。バグはリリース後に修正できる。
①プロトタイプ
(資金調達のためのデモンストレーションやマーケティング戦略が目的)
②アルファ・バージョン
(顧客ニーズの調査やバグ取りが目的)
③ベータ・バージョン
(外部のユーザーにリリースしフィードバックを受けて、性能や機能を改良しバグ取りをすることが目的)
④プロダクション・バージョン
(一般ユーザー向けプロダクト)
⑤アドバンス・バージョン
(リリース後に新機能の追加やユーザーインターフェースの変更などを行う)

・世界に同一のプロダクトをリリースする標準化と、地域のマーケットに合わせる現地化について考える。

 

3.特許

・自社が開発した技術を守る特許を取得することは、将来の事業展開を有利にする。特許が認められる要件は、産業上利用可能で、新規性があり、発明が容易でないという進歩性をもち、先に出願されたもの。

・日本とアメリカでの特許取得方法について。

 

4.マーケティング

・ステージごとのマーケティング戦略
①シード
(資金がなくプロダクトがリリース前)
友人の口コミ。
SEO対策を行ったウェブサイトで潜在的なユーザーとコンタクトをとる。動画コンテンツをつける。
ブログは費用がかからない、ブログ経由だとユーザーになってもらいやすい。
クラウドファンディングで資金調達とユーザー獲得を同時に狙う。
②アーリー
(開発資金はある程度集まっている、アルファ・バージョン以降のプロダクトは完成しているがユーザーが少ない)
ソーシャルメディアで動画を利用したりユーザーのフィードバックを受ける。
テクイベントやスタートアップ関連イベント。
投資家やアドバイザーや取締役のネットワーク。
既存ユーザーに新規ユーザーを紹介してもらう。
③アドバンス
(プロダクトがリリース後で一定のユーザーも獲得している、プロダクトから収益が得られている)
広告展開。
PR会社の利用。

・プロダクトの見せ方
ユーザー、投資家、社員の3者に向けての見せ方がある。
①ユーザー
プロダクトの特徴と斬新さを伝え、感情に訴えかけて購買意欲を刺激する。
②投資家
会社の成長性を示して資金を調達する。シードでは顧客ニーズを、アドバンスでは市場の拡大を訴える。
③社員
プロダクトの状況を正確に伝え、会社の将来のプランを示してモチベーションを高める。

・プロダクトの販売方法について
パッケージ化、ポイント付与、フリーミアム。

・他企業とのパートナーシップについて
相手企業にとってのメリットを示し、シナジーを生み出せる企業とパートナーシップを結ぶ。

・ブランディングについて
会社名、ロゴ、ドメイン名。

・海外市場について
シリコンバレー、中国、シンガポール、東南アジアなど。

 

5.資金調達戦略

・資金調達先
家族や友人
クラウドファンディング
エンジェル
インキュベーター
ベンチャーキャピタル
提携先(パートナーシップ)

・ラウンドごとの資金調達戦略
①シード・ラウンド
プロトタイプやアルファ・バージョン完成までの運転資金として、1万~100万ドルを調達。エンジェルとベンチャーキャピタルの投資を受けて、アドバイスや人脈の紹介を得るのが望ましい。
②シリーズA
ベータ・バージョンからファイナルプロダクトを完成させるため、100万~300万ドルを調達。エンジェルやベンチャーキャピタル、戦略的提携先から資金調達する。
③シリーズB
プロダクトをリリース後にマーケット拡大のため、200万~600万ドルを調達。調達先はベンチャーキャピタルや戦略的提携先。
④ファイナル・ラウンド
海外進出、M&A、IPOなどの費用にあてる。調達先はベンチャーキャピタルや投資銀行、ファンドなど。

・資金調達の方法
①投資家が知りたいことを知る
どのような問題をどのようにして解決するか。市場規模。チームの強み。競合に勝っている点。現在の状況。今後の計画。
②良いプレゼンを準備
③ビジネスプランをブラッシュアップ
④デモンストレーションを見せる

・資本政策
普通株式、優先株式、種類株式、コンバーティブル・ノート、ストック・オプションについて。適切な株主構成について。

 

6.エグジット

スタートアップにとってのエグジットはIPOとM&Aのふたつ。どちらをめざすにせよ、創業時から戦略的に行動する。

・IPOのメリット
上場により成長のための資金調達ができる。キャピタルゲインが得られる。知名度や信用度が向上。ガバナンスの強化。企業買収が機動的に行える。ストック・オプションで優秀な人材を維持する。

・各国証券取引所について。IPOの準備について。

・M&Aのメリット
特許を取得する。マーケットを拡大する。人材を確保する。

・M&Aの準備について。

 

書評

現在の日本でIT関係の起業を考えるときに、知っておかなければならない基本的な事項をわかりやすく網羅しています。丁寧にやさしくわかりやすく、まとまりよく書かれています。とにかく基本をわかりやすく押さえています。

著者はアメリカ人ですが日本語で書いたそうです。本当にわかりやすいテキストに仕上がっています。
NHKの国際放送で、外国人なんだけど標準的な文法で滑舌よくきれいな発音で日本語を話すので、ネイティブの日本人よりわかりやすい日本語だ、というイメージです。

それから本文中にもありますが、著者の日本に対する愛情が伝わってきます。日本には良い技術やサービスがたくさんあるのだから、もっとできるはず。世界的に活躍できる企業を生み出す基盤があるのだから、それをサポートしたい。というとてもありがたい日本への好意があります。

著者にはこれだけ日本に愛着を抱いてもらい、さらに日本の起業の手助けをしてもらい、このような良い本を書いてもらいました。

これに報いるには、日本人が世界に通用する良い会社をつくるしかないですぞ。
(書評2013/11/22)

「「ベンチャー起業」実戦教本」 大前研一/アタッカーズ・ビジネススクール(編著)

 

大前研一氏は、ビジネス・ブレークスルー大学やアタッカーズ・ビジネススクールを設立しています。これら教育機関の講義などをもとにした本のようです。大前氏が序章を、各章をそれぞれの講師が書いています。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

起業希望者。新規事業の立ち上げを考える人。

 

要約

序章

・見えない未来の社会の姿を見よ。

・サイバー社会に適応せよ(ネットを利用し、3時間で仮想の事業計画書を書き上げるといった訓練を自分に課してみる)。

・業界の常識を疑え。

・旧来のケインズ経済に加え、ボーダーレス経済、サイバー経済、マルチプル経済(借金でレバレッジをかけるの意味)が現代経済の特徴だ。

 

第1部 アイデア・ビジネスモデル・事業計画作成

・事業を構想するときは、定義や輪郭や広がりが不明瞭で、解決手段もはっきりしない問題を考えるための思考法が必要である。仮説を立て、分析し検証し、また仮説に戻るような思考をしなくてはならない。

・事業アイデアの例として、大きな産業をサポートする事業、ある部分のノウハウを徹底的に合理化しエリアごとに複製して展開する事業、ニッチな事業、ビジネスの過程を省略しコストを抑えたモデルでの事業。

・3C(customer、competitor、company)を考える。

・70%の確信で事業を始めよ。100%では遅い。

・事業の形態やキャッシュフローを考える。(夢だが失敗の可能性がある事業、発展性は小さいが日銭を確保できる受託の事業など)それぞれの事業構成のバランスをとる。

・起業家が持つべき7S。
shared value(会社の経営理念、価値観)
strategy(競争優位を築くための戦略)
structure(会社組織の構造)
system(会社の運営の仕組み)
skills(会社組織や社員の持つ特徴的な能力)
staff(人材の特徴)
style(会社の文化)

・事業計画立案のチェックポイント
①顧客は誰か。ニーズは何か。
②競合と差別化できるか。提携も考慮。
③コアスキルをどうやって獲得し、維持するか。
④会社の存在意義は何か、それを組織に浸透できるか。
⑤グローバルな動向を見る。
⑥ビジネスが経済的に成立するか考える。
⑦キャッシュフローの見通しをつける。

・起業には困難が大きい。好きなことでなければ続かない。

・自分のコア(土地勘のある)な分野で事業をやること。

・スタートアップの準備
①ビジネスプランを考える。
②マネタイズを考える。(プロフィットセンターに売る、リッチな顧客に売る)
③市場でのポジションを考える。
④短期(最初の数か月)、中期(最初の1~2年)、長期(5~10年後)の事業目標を定める。
短期:プロトタイプをつくる。最低6か月の事業資金を用意する。日銭を稼ぐアルバイトプロジェクトも考える。
中期:プロトタイプを商品にする。損益分岐点に到達させることが目標となる。
長期:会社を成長させる。ミッションとビジョンが必要である。ビジョンに関係する高い目標を設定する。
⑤資金を調達する。
プロトタイプをつくり、企業価値を上げながら増資をする。創業者の持ち株比率をあまり落とさないように。取引先など、自分の事業を応援してくれるところに株を買ってもらう。ベンチャーキャピタルの投資には、商品とそれにお金を払っている顧客の存在が必要である。
⑥テイクオフ。
小さく始めてぼちぼち広げろ。

・事業計画書の作成。
①1~3年後の事業の目標を具体的にまとめる。
②事業目標達成に向け、マーケットニーズやポジショニングを再検討する。
③収支予測を立てる。
④支出予測額の販売管理費や広告費に合わせて、マーケティングプランをつくる。
⑤事業計画書を書く。
エグゼクティブサマリー、ミッションと事業ビジョン、事業概要と製品サービス、市場概要、競合情報、事業目標と戦略、マーケティング、マネジメントチームと会社組織、事業リスクとリスクマネジメント、財務計画、資本政策、投資計画。

 

第2部トップ起業家になるための必須スキル

・自分の思いや価値観を、繰り返し言葉にして伝える。

・起業プランニング
①起業の根本動機を見つめる。
②現場を素直に柔軟な目で見て、現場から発想する。
③顧客にとって価値があるのか、顧客はどれだけの対価を払うのかを考える。販売価格、コスト、販売量を検討する。
④顧客に提供する価値を決めたら、提供する事業全体の仕組み、ビジネスモデルを考える。事業開始後の展開も先読みしておく。
⑤とにかく顧客と自社の分析が先。次に競合と協業も分析する。
⑥収益性の検討をする。ここからビジネスモデルの設計に戻り、事業プランを完成させる。キャッシュの出入り、重要な変数をつかんでおく。

・経営者は俯瞰的に全体を見ながら、必要な細部を的確につかまなければならない。サンプルを3つとって速やかにポイントをつかめ。適切な中間目標を設定する。

・高いビジョンを示すこと。人の思考・性格のパターンを知り、異なるタイプの人の集団から力を引き出すこと。

・事業の成長期に、キャッシュが不足し破綻する場合がある。手元資金でどのくらいの期間もつのか計算する。

・資本政策や資本構成の決定は、それぞれの起業家の価値観や考え方に左右される。

・ベンチャーでは、どうやって優秀な人材を集め、ひきつけておくかが採用の大前提。ベンチャーの採用活動は、自社を売り込むマーケティングである。応募者の共感を得られるような、ビジョンや社内環境が大切だ。

・採用する最低限の基準を考え、それ未満の人材は絶対に採用しない。優秀な人材は機会を窺い、粘り強く長期に勧誘する。

・頭のよい、コミュニケーションで人に伝える力のある、問題意識を持つ、性格のよい人を採れ。

・ベンチャーはまず、チームとして成果をめざすような組織運営をする。よい社風を起業時からつくる。大企業の硬直的組織を回避し、顧客志向の組織にする。

 

第3部 事業成功へのファイナンス戦略

・ビジネス現場で必要な計数感覚を身につける。

・顧客に製品・サービスを売った本業での利益のみが、再投資に使える資金となる。将来の利益に貢献しない資産は損失となる。持たない経営を考える。

・売上総利益、加工高、限界利益を算出し、労働分配率が50%以下になるよう人件費を決める。

・販売管理費比率に売上高営業利益率を加えたものが、粗利益率として設定される。この粗利益率から価格が決まることを忘れない。

・投資を回収するまでの期間など、キャッシュフローを意識する。将来のフリーキャッシュフローは割り引いて計算する。

・企業の成長に応じた業績管理のステップ
ステップ1 財務会計のレベル
ステップ2 全社業績管理のレベル
ステップ3 部門別業績管理のレベル
ステップ4 次期経営計画の導入レベル
ステップ5 経営戦略に基づく中期経営計画の実施レベル

・ベンチャーはIPOをめざすことによりはじめて、株式公開前の増資を投資家に引き受けてもらうことができる。

・資本政策の目標は、資金調達と持ち株比率最適化の達成である。

・業務提携先に自社株を保有してもらうのも事業戦略である。

・事業計画の必要資金調達額と、実際の調達可能額は保守的にすりあわせる。

・資本政策は起業家自身の判断と決断で策定する。

・株式分割と新株予約権について。

・資本政策策定の3原則
①資本政策は一度実行したら元には戻せない。
②株価は一度上げたら下げられない。
③投資家がついてこない資本政策は実現不可能。

・役員や社員への株式の割り当てについて。

・ベンチャーキャピタルについて。

 

書評

本書は2000~2005年頃の教材や講義をもとにして、出版されたようです。そのため、解説や例示される事柄がやや古い印象はあります。

大前氏が序章を書き、起業に関係する領域を講師がそれぞれ担当して解説しています。多くの講師で分担しているため内容が重複するところもみられますが、重複する部分は特に重要と考えればよいでしょう。大前氏が考える、起業に必要なひとつの基本型が本書で学べると思います。

少し事例が古いですが、あるひとつの起業方法論の枠組みを学ぶため、読んでみるのもありかなと思います。
(書評2013/11/09)

「Yコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール」 ランダル・ストロス(著)

 

Yコンビネーターとは、IT系スタートアップに投資をするアメリカのベンチャーファンドです。本書は、シリコンバレーの起業家たちを取材したノンフィクションです。IT系の起業では、大いに参考になります。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

シリコンバレーにおける起業の実像に興味がある人。

 

要約と注目ポイント

起業でやるべきこと

スタートアップに必要な5つの要素は、貧乏、スタミナ、移動(引越し)できる身軽さ、同僚、(起業の困難さへの)無知である。

スタートアップは、急速に成長する新しいビジネスでなければならない。

自分自身が使いたくて、自分以外が作るのが難しく、成長の可能性を他人が気付いていないようなサービスを探せ。

アイデアはとにかく早く形にして、プロトタイプでもよいのでユーザーに届けろ。ユーザーが求めるものか反応を見ろ。フィードバックを得て改良せよ。

毎週の成長目標を数値で設定し、達成させる方法を考え抜け。

営業相手からの拒絶に打たれ強くなれ。契約は必ず成立させろ。セールスアニマルになれ。

コードを書け、顧客と話せ。

必ず誰かと一緒に起業しろ(創業者は2~3人が最適)。

シリコンバレーの熱気が、はっきりと伝わってきます。さまざまなタイプの起業家が登場し、多くのアイデアを披露しているので、起業したい人にもおすすめです。

 

書評

シリコンバレーを舞台にしたノンフィクションとして読んでも、そこそこ楽しめます。もちろん、IT系で起業を考える人には参考になります。ただしあくまでも読み物のような形態であり、登場人物が多く構成も込み入っていて、内容が少しわかりにくいです。

例えば、あるスタートアップを参考にしたいと考えたとします。最初にアイデアを出した段階から、開発、アイデアの変更や改良、資金調達、プレゼン、本格的な市場への展開などと続きます。

このようなスタートアップの経過を自分の起業の参考にしようとしても、本書をかなり熱心に読まないと捉えることができません。場面ごとの記述がバラバラに切り離されているので、自分で探す必要があります。

というわけで、ちょっと起業の参考書としては使いにくいのですが、本書にはIT系の起業ビジネスモデルが大量にあるので、勉強になります。起業に強い意識を持ちながら本書を読めば、有益な情報を読み取れると思います。

漫然と読んでも読み物として楽しめますが、本書を起業に役立てられるかは、読者の読み方次第かと感じます。要旨は書きましたが、本書は分量も多く、何が重要かは読者ごとに異なりますので、気になる方はご自身でお読みください。
(書評2013/10/18)

「20代の起業論」 榊原健太郎(著)

 

ダイヤモンドオンラインで著者がコラムを連載しており、読みながら勉強になるなと思っていました。熱い気持ちの起業論です。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

起業したい人。特にIT関係で起業したい人。

 

要約

・著者の自己紹介。
新卒でサラリーマンを3年勤め、不条理を知る。起業家は不条理な体験をしておくべき。その後ITベンチャーと広告関連企業で、営業、企画、マーケティング等に従事した。その経験をもとに、シード・アーリーベンチャーの支援と、スタートアップのベンチャーへの投資を行う会社を設立した。

・ベンチャーが育つエコシステムを成立させる4要素
①起業家同士のネットワーク
②起業家を支援する体制(専門家、行政)
③多様な投資家(シード、アーリー、ミドル、レイター各段階での出資)
④大企業によるバイアウト

ベンチャーのEXIT戦略は、IPOとバイアウト。最初から大企業や大手ベンチャーの弱い領域をターゲットとして起業し、成長させバイアウトをもちかける。長期で事業を伸ばせるならIPOをめざすのもよい。

・サムライインキュベートでは、起業家同士のネットワークを強化し、各ベンチャーが業務を効率的にできるようなしくみを構築している。

・アイデアだけでは価値はなく、オープンな姿勢でどれだけ早く実現できるかが重要5年後の社会で必要とされる事業のアイデアを考える。

何をマッチングさせるサービスか、を考える。「当たり前」や「できっこない」を疑え。いろいろな立場の人の視点で、何が必要か考える。

アイデアのブラッシュアップ手法
PEST分析(Politics、Economics、Society、Technology)
5F分析(マイケル・ポーターの5つの力。新規参入の脅威、代替商品サービスの脅威、買い手の交渉力、売り手の交渉力、業者間の競争)
3C(Customer、Competitor、Company)
ミッション(起業の動機)とビジョン(3年後の事業イメージ)
ポジショニング
4P(Product、Price、Place、Promotion)
オペレーション
①~③が外部環境の分析、④~⑦が実行のための戦略行動。

・サムライインキュベートは、起業家の人格をみて投資する。

 

書評

起業を考えるには、これもかなり勉強になる本です。特に事業がIT系、インターネットを介するサービスならば、読む価値はあると思います。

起業家や経営者が書く本は、どうも人生論が多くなって、やたら人生を語ったりします。本書も、やや人生論や価値観を語る箇所もみられます。

ただ、事業モデルの検討や分析、実際に起業したあとのオペレーションなど、大いに参考になります。検討中の事業モデルや現在投資中の事業が、豊富に実例として取り上げられているので、分かりやすく読めます。
(書評2013/9/29)

「起業は1冊のノートから始めなさい」 上野光夫(著)

 

ダイヤモンドオンラインに、著者のコラムが連載されていました。勉強になると思っていたら、連載後に出版されました。個人事業のスモールビジネスから、会社をつくるやや大きい規模のビジネスまで、どちらにも参考になる本です。

おすすめ

★★★★★★★★☆☆

 

対象読者層

起業したい人。独立したい人。起業したいが、具体的にどう行動すればわからない人。

 

要約

起業の成否は、事前にどれだけ準備をしたかで決まる。手書きの起業ノートを活用しよう。

・本書では起業の準備期間を1~3年とし、起業して5年以上事業が続けられることを目標とする。

・手書きの起業ノートの効果は3つ。
思考が整理できる。不足しているスキルやノウハウが認識できる。起業準備の進捗状況を確認できる。

・起業後に事業が継続できなくなる原因は3つ。
日々の仕事に追われ、アイデアが生み出せなくなるアイデアの壁。やる気が落ちたり、タイムマネジメントがうまくできず行動力が鈍る行動力の壁。心が折れるマインドの壁。しっかり起業準備をした起業ノートを振り返ることで、3つの壁を乗り越える

・起業ノートは自分だけが見るので、正直に書く。ただしネガティブなことを書いても、自分のモチベーションを高めるメッセージを必ず残すこと。

・起業準備でノートに書くべきこと。
動機と理念
②起業までのスケジュール
ビジネスモデル(の検討)
起業家マインドの強化
不足するスキルとノウハウ(を補う)
人脈形成
事業計画経営資源調達

起業家で重要なのは行動力。起業前にできることはすべてやっておく。起業の日を決め、逆算して行動プランをつくる。

・起業することによる、自分にとってのメリットとデメリットを書く。事業が軌道に乗ればデメリットは解決できることを認識し、意欲を高める。

・社会貢献を目的としていても、利益の確保という視点を忘れない。

・メディアで華々しく紹介される起業家には惑わされない。ただし、参考になることはノートに記録しよう。他の起業家との違いを考え、競合他社との違いを常に意識する。

・起業家になるには、マインド、タイム、マネーに関して自分自身をマネジメントする必要がある。
苦難に耐え克服する心の強さ、効率よく仕事をする時間の使い方、リターンを考えリスクをとって投資し利益を出す能力、が求められる。

・起業準備の段階では、ビジネスモデルとマーケティングについてアイデアを考え抜く。ビジネスモデルは300個以上考えよう。

・既存の多くのビジネスモデルを少しずつ取り入れて、独自の工夫を凝らしてオリジナルのアイデアをつくる。

異業種海外のビジネスモデルから学ぶ。顧客の不便や不満、既存のビジネスでの新しいコスト削減方法自分だけが提供できること、を考えアイデアをつくる。

お客様が自分のビジネスにお金を払うか検討する。
ターゲットの顧客の数。提供する商品やサービスと競合他社を考慮し、顧客が自分から買う理由があるか。顧客はどれだけお金をもっているか。顧客はいくらなら買ってくれるか。

・多くのアイデアから起業のビジネスモデルを構築するには、
①「CAN」「MUST」「WANT」でアイデアを分類する。
②実現、継続可能性を分析する。
誰に何をどうやって売るのかを明確にする。

・他の起業家の失敗事例から学ぶ。自分のビジネスモデルに対する、他者からの評価は冷静に受け止める。

・自分のキャリアの棚卸をして、足りないスキルやノウハウは起業までに学ぶ。勤めている会社のノウハウを取り込んだり、専門家を活用する。

・起業にITの活用は必須

セミナーに参加したり、気になる人に会いに行こう。独立準備中という名刺も有効。

ビジネスで関係する可能性と、信頼できるかという、2つの軸で人脈マップをつくる。
相手にメリットを与えられてはじめて、自分もメリットを得られる。

起業ノートから事業計画を練り上げる。イニシャルコスト、ランニングコスト、キャッシュフローを計算する。5~7年で元が取れる投資額を検討する。融資も検討する。

 

書評

すばらしい内容です。私がやりたい事業をうっすらと思いついたあと、ああでもないこうでもないと考えたことはすべて本書に書いてありました。そして、私が考えつかなかった重要なことも多くありました。

著者は融資担当者として長年金融機関で勤務し、さらに自身が起業の準備をして独立し、事業を軌道に乗せているという、起業を論じるのに最強の立場にいる人です。
とにかく具体的に、何をどうやって準備していくべきか、どう考えて行動するべきか、をわかりやすく解説しています。

起業するなら、本書で指摘されていることは考え、行動しましょう。本書の内容は、必ずやるべきと思われます。起業する人にとって、本書は読むべき1冊とおすすめできます。私も起業ノートを書きます。今日から。
(書評2013/9/22)

「一日も早く起業したい人が「やっておくべきこと・知っておくべきこと」」 中野裕哲(著)

 

著者は、起業志望者のコンサルタントや支援を行っておられます。実践的ですぐわかる、起業を考えるための入門書です。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

起業したい人。独立したい人。

 

要約と注目ポイント

・起業して、3年後生き残っているのは4割。事前の準備が大事。

・①自分がやりたいこと、②自分ができること、③社会が求めていること、の3点を満たす分野を選べ。そのうえで、ビジネスモデルが成立するか考えよ。

・マーケティングを怠るな。事業計画書は、自分で考えながら書く。

・個人事業開業と会社設立について。

・資金調達について。

・集客について。

・ビジネスパートナーについて。

・自己資金、個人信用情報、人脈、経験、家族の理解、資金繰りなど、起業での注意点。

起業の前に知っておくべき、基本事項が書かれています。この基本事項をひとつずつ、さらに自分で深掘りしていくのが良いでしょう。起業入門として適しています。

 

書評

とてもわかりやすく、起業で考えるべきポイントを解説した本です。実際に起業の準備を始めれば、もっと詳細な実務上の問題があるでしょうが、いちばん初めに読む本として適切と感じました。

やっている人には常識な事柄ばかりでしょうが、ひとつずつ確認できる良い本だと思います。

融資を申し込む際には、個人の通帳を過去1年分提出したりするのですね。株の売却益などで自己資金をつくっていると、融資の際に印象が悪いらしい。気をつけよう。
(書評2013/07/16)