「僕たちが親より豊かになるのはもう不可能なのか」 リヴァ・フロイモビッチ(著)

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今日より明日はよくなる。そう信じられる時代は終わったのか。28歳のウォールストリートジャーナル記者が書いたレポートです。

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対象読者層

金融危機後の、若者の雇用や生活に関心がある人。

 

要約と注目ポイント

・金融緩和政策により株価は上昇し、シリコンバレーでは成功した若者がすでに億万長者となっている。だが多くの若者は、雇用、賃金、教育、住宅、結婚などに悩まされている。1976~2000年生まれのY世代は、アメリカンドリーム、中流階級の生活を実現できるのか。

・1980年代以降、アメリカでは社会保障や教育への支出が削減され、若者が豊かになれるチャンスは減った。2007年からの金融危機で、それは決定的になった。自らの努力次第で親より豊かになれるという、アメリカンドリームという価値観が消えかけている。

・高い学資ローンを払って大卒となっても、スキルを必要とする賃金の高い仕事に就くのは難しい。低賃金で不安定な非正規の仕事に就かざるをえず、キャリアを蓄積できない。住宅を持てないので独立できず、親と同居し結婚にも支障がある。Y世代の労働の機会が失われれば、長年にわたり生産性は低下する。経済は低成長となり、社会保障費は重くなる。

・この30年間で格差が拡大してきた。規制緩和が進み、社会保障や政府支出は削減された。教育の公的支援も削減され、高所得の家庭と低所得の家庭の子供で、学業成績や学歴の差は固定化した。アメリカの主力産業は、製造業からITと金融に移り、一部の企業幹部に富が集中した。グローバル化が進んだため、多くの労働者は、職が減り賃金が低くなった。

・政府はこれらの事態を改善する責任がある。

若者の間にも、貧困と格差が広がっています。アメリカンドリームは消えてしまったのか、若い新聞記者が、世界の若い世代を取材します。

 

若者たちの実例

・なかなか仕事に恵まれず、高額の学資ローンに圧迫され続ける、アメリカの若者たちの実例。

・金融危機後、緊縮財政と増税のため失業者があふれ、仕事に就けないヨーロッパの若者たちの実例。

・一時的な短期雇用や、無給で正規採用が約束されていないインターンシップを何回も繰り返すが、安定した職をえられない若者たちの実例。

・高度な教育を受けた若者が、職がないため外国へ移住していく、頭脳流出の実例。

・未来のない先進国ではなく、成長する新興国で生活する若者たちの実例。新興国にはチャンスがあるが、問題も多々ある。

・アメリカでは政治的な理由から、緊縮政策が採用されている。そのため経済は低迷し、若者は困窮している。

・高い学費の負担軽減や、教育格差是正、若者の就労支援に取り組む、アメリカ国内のさまざまな実例。

・Y世代は新しい時代に対応し、自分の人生や生活を常に見直し、改善し発展させていく努力をしている。柔軟に小さなビジネスをつくり、生き抜いている。

世界各地に存在する貧困と格差を、若者の姿を通して表現します。また、その解決に向けた努力も描いています。

 

書評

移民の子であり、若い新聞記者であるという著者の経歴が、本書の主張に表れているように感じました。社会的な不公正に怒る、リベラル派の若者の論調です。

若い記者が勢いで書いた本なので、若干つじつまが合わないところもあります。ヨーロッパの若者が絶望して、アメリカに移住したらどうにかなったという例があります。でもそのあとには、アメリカにはもうチャンスがないので外国に行く、という例が出てきます。

そこは置いておいて、本書の主張は。

グローバル資本主義、金融資本主義が行き過ぎた。規制緩和が進み、富裕層や高所得層に有利な法制度、税制度となった。教育支援や社会福祉、公共投資の予算は削減され、低所得層が教育を受けて職を得る機会が減少した。学費が高額化し、学資ローンの負担が重くなった。

現在の若者は安定的な職に就けず、このためキャリアを積めない。低所得のまま一生を送るおそれがある。家庭も持てないので、子供もつくれない。社会階層は固定化し、経済は低成長となり、少子高齢化で社会保障費だけが増え、閉塞した社会になる。この時代に若者だった人たちは、人生を無駄にしてしまう。政府は政策を転換すべき。

ざっとこのような内容です。

このような主張は、もっともだと思います。あるべき政策、正しい政策を考えたり、その実現のために活動するのもよいと思います。ただ問題は、自分が考える正しい政策が実現するとは限らないし、実現しても10年後、20年後では意味がないということです。極端に言えば、政策や制度が変わるかは、(自分が活動したとしても)他人任せです。

そのため、正しい政策を考えるのとは別に、自分が生き残る方法も探した方が良いでしょう。今の時代で生きのびるにはどう行動すべきか、本書でも最後に少し書かれていますが、いくつか考えてみました。

借金はなるべくしない。特に高額な学費、車、住宅などのローンについては熟考する。
借金とも関連するが、若いときは身軽にしておく。失業、転職、引越し、家族構成の変化は想定すべし。
社会制度に関心を持っておく。利用できる制度は使い、該当する補助や支援は受ける。
経済や産業を常に観察しておく。景気循環や、成長しそうな産業、衰退しそうな産業を見ておく。いつ雇用が増えたり減ったりするか、どの業種で仕事が増えたり減ったりするか、想定する。
技能を複数持つ。柱になるスキルのほか、他のスキルも持ちたい。趣味的なスキル、知識、人脈も助けになる可能性あり。
社会構造の変化が速いので、オープンマインドで。いろいろな人に会い、多様な考え方を取り込む。
失敗したら教訓を学ぶ。だが失敗しても、くよくよしない。しつこくがんばる。

こんな感じかと思うのですが、こんなにうまくできそうにありません。しかも、本書に登場する若者は、ほとんどが私より積極的に行動しており、学歴も高いです。そんな彼らでもうまくやっていけないなら、どうすればいいのでしょうか。

しかし、やはりアメリカです。最後の章では、それでも前向きに柔軟にチャレンジする、アメリカの若者たちが出てきます。小さなビジネスを立ち上げたり、効率的に社会活動を運営したり。このオープンで前向きにがんばる姿勢は、真似したいと思います。
(書評2015/10/10)

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